矯正治療では、患者さんの理想的な歯並び・咬み合わせにするために、抜歯を必要とすることがあります。
それではどの歯を抜歯するのが良い選択なのでしょうか?
すべての歯の健康的条件が同じ場合は、抜歯しても最も影響が少ない歯を選んで抜歯しますが、それは小臼歯と呼ばれる犬歯(糸切り歯)と6歳臼歯の間にある2本の小さい歯のうちどちらかを、抜歯する歯として選びます。
なぜ小臼歯を優先的に選んで抜歯するのでしょうか。まず、上下とも4本の前歯は特徴的な形をしていて、この4本の歯が前歯の位置に並んでいないと見た目に違和感が出てしまいますので、前歯を優先的に抜歯することはありません。
次に犬歯(糸切り歯)は、上下とも根が長く全ての歯の中で最も寿命が長い歯であり、さらに食べ物をすり潰す時に咬み合わせを誘導するという大切な役割があるため、たとえ八重歯だったとしても犬歯を優先的に抜歯することはありません。
最後に6歳臼歯と12歳臼歯と呼ばれる奥の2本の大きい歯は、食べ物をすり潰すために最も重要な役割を担っており、複数の根が張っていて咬む力を支えることに最も特化した歯なので、優先的に抜歯することはありません。
このように小臼歯は他の歯と比較すると重要な役割を担っているわけではなく、根も他の歯と比較して短いことから、矯正治療をするときに優先して抜歯することが多いのです。
歯が大きく歯槽骨の幅が小さくて、本来抜歯が必要であるにも関わらず無理に抜歯をしないで矯正治療を行うと、前歯が並びきらない分、前に飛び出してしまい、その結果口を閉じても猿のように口元が出た感じになってしまいます。
そうなると見た目が悪いだけでなく無意識に口を閉じることができなくなってしまうため、就寝時に口呼吸になり口の中が乾くため、虫歯や歯周病が進みやすくなります。
後戻りというのは、矯正治療を終えて完全に正しい歯並びと咬み合わせに治ったあとに、歯が矯正治療前の元の位置に戻ろうとして、歯並びが悪くなることです。
歯の大きさと歯槽骨の大きさのバランスで、本来歯が並びきらないスペースに無理やり歯を並べた状態であれば、やはり後戻りは起きやすくなります。
非抜歯で無理やり並べると、スペースがなくなり、食べ物を噛み潰す重要な役割を担っている一番奥の12歳臼歯のはえる場所がなくなることがあります。そうなると、歯が歯茎のなかに埋まったままになるため、並べられない場合や、埋まったまま横向いてしまい親知らずに歯根を吸収されてしまう場合があります。歯根がたくさん吸収されると、歯がぐらぐらするなどの症状がおこり、さらに吸収が進むと歯の保存が難しくなります。
そのような状態になった場合、早急に12歳臼歯のはえる場所を確保するため小臼歯を抜歯し、再度並べていく必要があります。場合によっては、親知らずも抜歯する必要があります。
12歳臼歯が生えてくるのは大体11~13歳頃になるため、治療計画よりも表側の装置がついている期間がかなり長くなりますし、抜歯する際にも保険が適応にならないため、高額になってしまいます。
※小臼歯の抜歯をする際、矯正治療のための抜歯は保険適応できないため、自費扱いになります。ただ親知らずの抜歯に関しては、年齢により保険適応になるため、金額に大きな差が出ます。
非抜歯での治療を希望している方や抜歯に不安を持っている方も多いと思いますが、当院では一人一人に合った診断をし、最適な治療計画を立てています。どちらの方法でもメリット・デメリットはあります。以上の内容をしっかりと理解したうえで、ご家族でたくさん話し合い、今後の治療方針を決めていただきたいと思います。
下の画像は下顎の左右12歳臼歯(7番目の歯)が倒れてしまって生えてこない人のレントゲンです。